松戸まつど
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まちの人びと 2024年8月26日

創業103年。お灸専門治療院「土屋灸術院」~お灸はなぜ効く?病魔を根治する信念に迫る!~

1年前(2023年)の猛暑の8月、松戸市の馬橋発着のサイクリングを取材しました。
その日、初のサイクリングに挑戦した女性が、お灸の先生でした。

昨年の記事:どうする酷暑のサイクリング~松戸・取手交流サイクリング納涼編~

  • 萬満寺前での記念撮影(2023年8月)

  • 灸治療で使う もぐさ(奥)、目印を付ける墨、線香

  • 「初めて治療院を訪れる患者さんに(治療の道具は)これだけですか?と驚かれます」

    今回は松戸市馬橋で創業103年「土屋灸術院(つちやきゅうじゅついん)」灸師の土屋文子(つちや あやこ)院長を取材しました。

  • 土屋文子院長(旧水戸街道にて。後方に萬満寺)

  • 知っているようで知らないお灸の世界

    ― どのような人が治療に来られるのですか?
    持病のような慢性的な悩みを持つ患者さんが多いです。近年は癌、糖尿病、パーキンソン病など病院(西洋医学)での治療と併用される患者さんも増えたように感じます中には『いろいろ探して、ようやく辿り着いた』という方もいらっしゃいます。」

    伺うと喘息、神経痛や、抗癌剤で苦しむ内科系の方から、自転車の落車時の怪我や後遺症に悩む競輪選手(多数)のような外科的な方まで…、年齢も6才の子どもからお年寄りまで、とても幅広い患者さんが訪れていることがわかりました。

  • もぐさを据えて

  • 線香で火を付ける

  • 実は重度の肩凝りと腰痛持ちの記者。最初は月2回、その後は月1回のペースで通ってみました。
    優しい笑顔と静かな語り口で、その日の体調に耳を傾けてくれ、慣れた手つきでもぐさをひねって、線香で火を付けると…

    記者ううっ…(気持ち良い)

    土屋先生唇が赤いようですけど、胃が疲れているのではありませんか?」

    と、追加で胃腸の経穴(けいけつ ※ツボ)にお灸を据えられることも。
    その効果は、毎回、治療が終わって馬橋駅に向かう足取りが軽くなり、翌朝も出勤時から体が軽く感じるほど。

    お灸はなぜ効くのか?

    お灸は体に熱で刺激を与えることで急激に皮膚の血流量を増大させ、局所の充血や貧血を調整し、さまざまな炎症をやわらげる効果も。皮膚の下にある筋肉、血管、リンパ節も刺激されるとのこと。

  • WHO(世界保健機関)が認めたお灸の効果

  • ― 血行は分かりますが、病気に効く仕組みは何でしょうか?
    「近年はヒートショックプロテイン(HSP)による細胞の活性化によって、自己回復力及び免疫力の増強、炎症の抑制に効果があると言われています。HSPは人間の細胞の中にもともとあるたんぱく質で、入浴など熱刺激が加わった時に作られ、増加するのです。」

    詳しく聞くと、お灸には白血球、赤血球、血小板を増加させたり、血液をアルカリ化する効果があるそう。さらに、癌細胞やウィルス感染細胞を破壊するナチュラル・キラー細胞の活性化で免疫力を増強し、自己回復力を高めることで、健康の回復や病気の予防にも効果があるそうです。

    受け継がれる土屋流のお灸

    ― 灸術院を営む経緯を教えてください
    「大正10年(1921年)創業の初代は祖父の土屋 新平(しんぺい)でした。手先が器用だったようで、木版画のチラシを自作するほどの人でした。私が生まれた時には既にこの土地に母屋と、離れの治療院がありました。笑われるかもしれませんが、子どもの頃は外で遊びまわっていて、お小遣いをもらいに行く時に顔を出すだけで、全く治療の様子を見たことがありません。祖父が残した家訓それを受け継いだのが2代目の私の母でした。」

    大切な自筆の家訓を見せていただきました。そこには「熟慮して筆を取り 更に過ちなからんことを期して灸穴を点ずる 飽くまでも此灸によりて病魔を根治すとの心念を以て 施灸する(一部抜粋)の強い信念が記されていました。

  • 自作の「まばしの名灸」のチラシ

  • 土屋家家訓

  • ― もぐさを取り出してからひねるまでが速すぎて見えません
    「母であり師匠の土屋 新(しん)に『患者を数多くこなすことが一人前になる近道』と言われたことが、今でも心に残っていますもぐさは固くひねると熱く燃焼しますが、症状に応じて燃え方を調節するのです。」

  • もぐさをひねる仕草

  • 整備したカルテ

  • ― 先生の代になって取り組んだことは何ですか?
    「母は頭の中にカルテが入っている人でしたので(笑)私はカルテの整備に取り組みました。今は後継者の育成です。多くの患者さんから『先生が治療できる患者には限りがある。将来、土屋のお灸が無くなると困るので、後継者作りも先生の仕事。』と言われるようになってきました。幸い、長女(4代目)がお灸の良さを知ってくれました。これまでは目の前の患者さんに対応するのが精一杯でしたが、103年目にして家族以外からも弟子を取ることになりました。」

    競輪選手が弟子入り!?

    今年(2024年)に入り、記者の自転車仲間で競輪選手の戸邉 裕(とべ ひろのぶ)さんが引退し、3月から土屋先生に弟子入りしました(4月から鍼灸専門学校の夜間部に通学)。

    ― 突然の弟子入り、驚きました!
    戸邉さん「引退まで土屋先生の治療を受けていました。2022年の年末、関係者への挨拶回りの際、そもそも私に土屋灸術院を勧めてくれた松戸市のスズキ機工の社長・鈴木豊さんが『土屋流のお灸をもっと広めたい』との話をしていて『それ僕じゃだめですか?』と先生に頼みに行きました。今住んでいる茨城県守谷市で開業を目指しています。」

  • 戸邉さん

  • しびれた足首の施灸(再現)

  • ― なぜセカンドキャリアが灸師なのですか?
    戸邉さん「その効果を自ら実感し、患者の痛みのわかる灸師になりたいと思ったからです。坐骨神経痛からくる腰の痛みで観客に向かって一礼するのも辛く、さらに左足の痺れからペダルに力が入らずダッシュが利かない状態で、土屋先生にお世話になりました。最初の治療後、直ぐに駐車場の車に向かう足取りが軽くて驚きました。その後のレースで1着が取れるまでに回復しましたが、鍼灸師を目指すには、年齢と国家資格を取得する期間を考え、今しかないと決断しました。」

    土屋先生「今も初診の日のことは鮮明に覚えています。満身創痍とはこのことをいうのだなと思いました。」

    取材で初代・土屋新平さんのかかりつけ医と、戸邉さんが生まれた馬橋の病院が同じだと判明しました。縁ですね!

  • 土屋先生(右)「戸邉さんにはカルテの分析もお願いしようかしら」

  • 土屋のお灸の特色

    土屋先生によると「平成18年当時、保健所に確認したところ、松戸市内でお灸専門は当院だけ」。さらに当院の施術する「皮膚の上に直接もぐさを置き、灸痕を残す『透熱灸(とうねつきゅう)』専門は全国でも稀」のようです。
    一般には市販もされている、紙製の筒の上でもぐさを燃やす『台座灸』がお灸のイメージ。巷の鍼灸院は鍼がメインで、皮膚の上のもぐさに点火後、気持ちの良いところで消火する『知熱灸(ちねつきゅう)』、鍼の上にもぐさを乗せる『灸頭鍼(きゅうとうしん)』、そして台座灸と、痕を残さない施灸がほとんどのようです。

  • 透熱灸

  • 台座灸(シールで経穴に貼るタイプ)

  • ― なぜ透熱灸が減っているのでしょうか?
    「専門学校の指導内容も、私の頃と変化が見られます。透熱灸の実習や開業後の施灸で学生や患者に火傷を負わせるトラブルを避けるため、授業も施術も鍼や無痕灸がメインになってきていると感じています。確かに痕は軽い火傷ですが、それの痕が消える(治る)過程も透熱灸の効果であり、市販のお灸や入浴、サウナとは違うのです。」

    病魔を根治する信念

    「長いこと通院されてる患者さんから、祖父の時代は1回の灸で治ったと言われたことがあります。しかし最近、患者さんの症状の質が変わってきたように感じます。体の不調が複合的な要因なのか、すぐに治らない患者さんも…。食品添加物、サプリメント、そして薬の身体への負担もあるのではないでしょうか?私は副作用のないお灸の効果を信じ、治療しています。」

  • 「その日の患者さんの体調に応じて、もぐさの大きさ、ひねり方を変えています」

  • 駆け出しの頃は、お灸は誰が据えてもツボを正しく取れば効いていくと、もぐさのひねり方、据え方を軽んじていたかもしれません。しかし、ひねり方ひとつでお灸の効果は変わってきます。据えるテンポも大事で、速くても遅くてもいけません。その後、師事した母の教え、祖父の残した家訓を受け継いでここまで来ました。ここに頼って来られる患者さんが治ると信念を持って、これからもお灸を据えていきます。」

    お灸を受けてわかる、土屋先生の柔軟なもぐさの据え方、悪い(痛い)ところに心地よく、治っていくと熱く感じる不思議な感覚。お灸の痕が消えるころ、また治療に行きたくなる土屋灸術院の“お灸の優しさ”を実感しています。

    土屋灸術院 千葉県松戸市馬橋1896-2 TEL.047-341-2483
    【治 療】8:30~12:00、13:30~17:00
    【休 診】日・月・祝祭日 詳しくはInstagram、ホームページのカレンダー参照
    【予約制】毎月第1営業日に翌月分について電話予約受付開始
    【最寄駅】馬橋駅、東口 徒歩3分
    【駐車場】4台

    千葉 淳

    千葉 淳 (ちば じゅん)

    「人生は旅」、学校卒業後、松戸市民から転勤族に。東北勤務時代に家族と「おくの細道」をたどるサイクリングを始めました。平成26年、転勤で帰郷をきっかけに市民ライターに応募。週末は”松戸芭蕉”になり、自転車に乗って松戸再発見の旅にでかけています。

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