松戸まつど
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スポーツ 2024年10月1日

松戸競輪場を走るアスリート達 ①~今年デビューの新人選手・山下祐輔YAMASHITA Yusuke〜

約2,300人と、日本で一番プロ選手の人数が多い「競輪」。しかし、普段その素顔はあまり知られていません。
それもそのはず、日本競輪選手会千葉支部によると、松戸市在住の選手はたったの9名。
今回は、松戸市自転車競技連盟(以後、松戸車連)に所属し、市民レーサーとしてバンクも走る記者(62)が競輪選手の日常に迫る企画の第1回です。

50km/h以上で自転車を駆る国家資格

プロになるには①日本競輪選手養成所 入所試験合格、②約1年間の訓練生活、③国家試験合格 が必要。入所試験に合格するためには1,000mを1分10秒以内でのタイムで走る必要があります。その平均時速 51.42km/h!!

【競輪メモ】競輪選手は国家資格

  • 松戸競輪場がホームバンク(練習拠点)の山下祐輔選手

  • 第1回は、今年(2024年)3月に第125期生として養成所を卒業し、5月からプロ競輪選手として新社会人生活をスタートした山下祐輔(やました ゆうすけ)さん(22)にお話を伺いました。

    【競輪メモ】「第〇期」の数字は養成所卒業期順

    2021年 コロナ禍が転機に

    ― なぜ競輪選手を目指したのですか?
    「中学、高校はサッカーでフォワードでしたが怪我で引退しました。大学進学で九州から出てきたのですが、コロナ禍でずっとリモート授業。思うような学生生活ではありませんでした。帰省した際に『二十歳になってできることをやるか?』と、父とたまたま出かけた久留米競輪場で、選手が走るスピードに衝撃を受けました。大学では部活をしていなかったので、千葉に戻ってから松戸車連に連絡を取りました」

    不完全燃焼から復活の兆し。ちょうどその頃、Jリーガーから競輪選手に転じた北井佑季(きたい ゆうき)選手(119期)が話題になっていました。

  • 2022年未経験の自転車競技に挑戦する山下選手(右)

  • 松戸車連での練習(左が山下選手)

  • 58km/hがウォーミングアップ!?

    取材当日の午前9時、「30回~!」の掛け声とともにウォーミングアップが始まりました。周回練習と呼ばれるもので、1周333mのバンクを「29回、28回…」とカウントダウンしながら走ります。ライン(一列の隊列)を組み、1周ごとに先頭を交代するため、自分が先頭でない周は空気抵抗が軽減されますが…気温30℃の中10kmも!徐々に加速していき、最終周回は58km/hを超えていました。

  • 周回練習で先頭を走る山下選手

  • 選手達の「お疲れさまでした~」の掛け声に「(これがウォーミングアップ……!?)」と圧倒されます。

    次のメニューまでの30分は、ごみ捨てしたり、空調の効いた検車場で自転車を調整したり、雑談したり。

    「今日は師匠がいませんが、その日集まった選手で練習しています。師匠以外の先輩からも教えてもらえますし、こちらからも聞きにいきます」と語る山下選手に、良好な人間関係の中で選手生活をスタートしていることがわかります。

  • A級の山下選手は緑のレーサーパンツ。上位のS級は赤

  • 浦部郁里選手(左)に「やまぴー」と呼ばれている山下選手

  • 2023年 競輪選手養成所合格

    2022年、両親を説得し大学を1年休学。見事、養成所入所試験に一発合格。

    ー どのような練習でタイムを短縮できたのですか?
    自分1人で追い込む、強度の高い練習には限界がありました。縁に恵まれ鈴木浩太(すずき こうた)選手(119期)に弟子入りし、能力を引き上げてもらえる練習環境を得ました。心がけたのは周囲に迷惑をかけないよう走ること。最初のうちは周回練習ではライン(隊列)の一番後ろを走り、先頭交代には加われませんでした。徐々に付いて行けるようになると、今日みたいに人数が少ない時に入れてもらえるチャンスが巡ってきました。スピードに付いて行けないと中切れを起こし、後ろを走る人に迷惑をかけてしまいます。そこを耐えることで力がついてきました」

    【競輪メモ】中切れ:隊列が途中で千切れること

  • 2023年。松戸車連の壮行会(前列中央左が山下選手)

  • 静岡県伊豆市にある全寮制の養成所

  • 70km/hに迫る実戦的な練習

    10時20分。2回目の練習が始まりました。今度は実際のレースを想定し、ゴール前の1周半(約500m)を全力でペダルを漕ぐ(もがく)高強度の無酸素運動。先頭の選手はバンクの角度も利用し、瞬間的に70km/hに迫ります。
    「中に入って観ましょう!」計測を担当する相樂 修(さがら おさむ)選手(78期)に導かれて内側で撮影。

    「最後の9.6秒が山下君のタイムです333m÷2÷9.6×60秒×60分で時速がわかりますよ(=62.4km/h)」と解説してくださいました。これを約30分毎に繰り返します。ひとつのメニューが終わるたびに倒れ込む選手を見ると、競輪が大変な職業だということがわかります。

  • 相樂選手。「9.3(秒)、9.5、9.6!」と半周毎の結果をコール

  • 残り半周を力走する山下選手(矢印)

  • 2回目の休憩タイム。静かな語り口の染谷幸喜(そめや こうき)選手(111期)は大学時代、十種競技でインカレ優勝、全日本選手権3位の元陸上選手。浦部郁里(うらべ かおり)選手(102期)はガールズケイリンの1期生。浦部さんは松戸車連出身の縁で過去に2度取材、今回も突然の依頼にも関わらずご協力いただきました。

  • レースの流れについて説明する染谷選手

  • シューズの説明をする浦部選手(右)

  • 浦部選手「山下選手は真面目でチャラチャラしているところがないです。落ち着いているので、もっと年齢が上かと思ってたら若かった(笑)。デビュー直後はもっと痩せていたけど、身体も大きくなって仕上がってきた印象です。競輪は脚があるかないかの世界。S級の選手とも練習ができるようになってきて、これから楽しみです」

    〈浦部選手達を取材した記事〉
    ようこそ!松戸競輪場へ ~市民レーサーからオリンピックを目指すケイリンガールズまで~
    父と娘が師弟関係?~松戸競輪場に親子選手誕生!!~

    2024年 競輪選手デビュー

    山下選手は、5月に新人選手のみによるルーキーシリーズを経て、本デビュー。初戦となる7月のいわき平競輪場での初日に初勝利(1着)を収めます。まだ優勝はありませんが、5場所連続して初日、2日目(準決勝)全て1着で決勝に進出しています。取材直前の和歌山競輪場での決勝は、僅差の2着と初優勝が見えてきました。

    ― 初勝利はどんな気持ちでしたか?
    「だんだん自分の走りが認められ、発走直前にオッズ(予想配当率)を見ると1番人気になっていたので、勝ててほっとしたというのが正直なところです。毎レース、テレビで観てくれている両親も、そろそろ?と思っていたようで、喜んでくれました」

    競輪の一般的なレースは3日間。前日に身体検査と車検を受け宿舎入り。そこからは不正(八百長)防止の観点から携帯電話を窓口に預け、家族とも連絡が取れなくなるそうです。

    ― 開催日はどんな生活を送っているのですか?
    「(選手が多いため)初めてお会いする方が多いです。宿舎は同県の選手と相部屋です。同県選手のレースは万一の時に備え待機しています。最終日に貰える賞金が現金なんです。アルバイトの時ですら銀行振込みだったので、新鮮というか、昔ながらというか…」

    【競輪メモ】賞金は現金支給

  • 和歌山での決勝ゴール。1番車(白)が山下選手(提供:KEIRIN.JP)

  • デビュー以来、7回の遠征に参加

  • 走れ!自転車

    「逃げて先行中心で戦うことを目標にしています」と語る山下選手。これは前に出て過酷な風圧を受けながらも、自ら仕掛けていく戦法です。5年前までゴールを狙って走り続けてきたサッカー少年は今、髭を生やした青年になり、戦うフィールドとして競輪場を選びました。そして、自ら決めたコースが勝利のコースになることを予感する、厳しい練習を積んでいることがわかりました。

  • 松戸競輪場】 〒271-0064 千葉県松戸市上本郷594
    JR北松戸駅から徒歩3分

    取材の模様が浦部郁里選手の視点で松戸競輪場のホームページで紹介されていました。
    下記のリンクからご覧いただけます。

    松戸競輪場公式ホームページ「ガールズ競輪選手ブログ」(2024年9月13日)

    千葉 淳

    千葉 淳 (ちば じゅん)

    「人生は旅」、学校卒業後、松戸市民から転勤族に。東北勤務時代に家族と「おくの細道」をたどるサイクリングを始めました。平成26年、転勤で帰郷をきっかけに市民ライターに応募。週末は”松戸芭蕉”になり、自転車に乗って松戸再発見の旅にでかけています。

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