「番手(2番手に付きますので)よろしくお願いします!」 明るい声がよく通ります。


松戸市自転車競技連盟(以後、松戸車連)に所属し、市民レーサーとしてバンクも走る記者(62)が、松戸競輪場をホームバンクとする競輪選手の日常に迫る連載の第3回。
第1回 松戸競輪場を走るアスリート達①~今年デビューの新人選手・山下祐輔YAMASHITA Yusuke~
第2回 松戸競輪場を走るアスリート達②~ダッシュでファンを沸かせるスプリンター・鳥海 創TORIUMI Sou~

松戸競輪場が練習拠点の伊澤茉那選手(撮影:飯島隆)
今回はプロ2年目を迎えた、日本競輪選手会千葉支部所属の伊澤 茉那(いざわ まな)選手(126期)をインタビューしました。松戸生まれ、松戸育ち、我孫子高校時代は陸上やり投げでインターハイ出場。
【競輪メモ】ホームバンクとは練習拠点の競輪場
じゃんけんが嫌い?
9時30分。ウォーミングアップと言いつつ、終盤は時速50kmを超える周回練習開始。まず最初に、3月に日本競輪選手養成所(以後、養成所)を卒業、今年デビューの川原 未紀(かわはら みき)選手(128期)から聞き込みを開始。
- 伊澤選手はどんな人ですか?
川原選手「まなさんはダッシュが強い選手です。レースの組み立て、気持ちの強さが勉強になります。それと…‟負けず嫌い”だと思います。誰にも負けないくらい練習しています」

周回練習中の伊澤選手(先頭)

川原選手(左)
伊勢崎選手「マナティはじゃんけんで負けるのも嫌いなんだよ~」
鳥海選手「伊澤さんがいると場が和みます」
確かに!前回の鳥海 創(とりうみ そう)選手(123期)の撮影時、伊澤選手の「ポーズ取りましょうか?」で周りが笑顔に。勝負の世界、負けず嫌いは当然として…ご本人曰く…じゃんけんそのものが嫌いなんだそうです。

伊勢崎彰大(いせざき あきひろ)選手(86期)(中央)

鳥海選手(中央)取材時の伊澤選手(左端)
【競輪メモ】「〇期」の数字は養成所卒業期順
あっという間の1年
ー 出走数80回、競輪選手になってどんな1年でしたか?
「あっという間でした。デビューしたばかりと思っているうちにもう後輩がいる!養成所時代は毎日が訓練で長く感じましたが、今は開催(3日間)が月に2・3回あるので、前後の移動日も含めるとひと月はあっという間です。 楽しく充実しています」
【競輪メモ】全国に43の競輪場があり、選手は各地の開催へ斡旋される。


ー じゃんけんが嫌いとは?
「そこですか(笑)。勝つ方法が無いからなんです。競輪の良いところは、日々の練習の成果が出ること、自分で考えたレースの組み立てで走ることができることです。レースで翌日の対戦メンバーが発表されると、寝るまでどうやってレースをするかずっと考えています」

じゃんけんの質問に爆笑(撮影:飯島隆)
― 競輪選手になって大変なことは?
「モーニング競輪やミッドナイト競輪もあり、体内時計が乱れてしまい戻るまでが辛いです。それと開催中は1日1レースのみで1日が長く感じます。最近は選手宿舎で流行っている編み物をしています。(川原選手の視線に気付き)あっ!本当は始めたばかりで…まだ5段しか編めてませんでした(笑)。編み物は他の選手とコミュニケーションを取るのにもいいですね」

編み物はちょっと盛りました(笑)

練習終わりにプロティンを飲む
【競輪メモ】開催は日中・ナイター以外に朝8時台からのモーニング、20時台からのミッドナイトがある。
バーベル110kg
「みきてぃ、明日休みだから頑張ろう」伊澤選手が川原選手を筋トレに誘います。
デットリフトで110kg、見てるだけで腰が痛くなりそうです。驚く記者に「キレのあるダッシュをするために体重を増やし過ぎてもダメなんです」と解説してくださいました。

太腿56.5cm、背筋力145kg(撮影:飯島隆)
川原選手「これナニ目的ですか?……マジきつい」とへたり込みます。しかし、何と!直後の発走機からスタートの計測で「自己ベストでました!」

伊澤選手「使う筋肉が同じですよ」

川原選手「ギヤが軽く感じました」
【競輪メモ】選手は戦歴以外にも計測タイムから身長、体重、太腿回り、背筋力等のデータが公表されている。
競輪選手の鍛え方
同じ練習グループの先輩選手に伺いました。
染谷選手「最初見たときは細かったが、自転車選手の体付きになってきている。競輪は過去の競技歴より、なってからのほうが重要。練習をさぼらないこと、シーズンオフがないので練習強度のピークを作りすぎないことも大切です。ケガをした時にへっちゃらな人もいれば、くじける人もいますが…色々な意味で“気持ちが大切”なんです」

染谷幸喜選手(111期)大学時代は陸上十種競技選手

浦部郁里選手(102期、ガールズケイリン1期生)
浦部選手「他の競技から入ってきた選手は乗り込みが不足しがちです。競輪は自転車との親和性が大切な競技ですので、長い距離を実走することで、体の土台を作るのに加え、効率的な身体の使い方、自転車の操り方が身に付きます。レース経験を積んで伸びていく選手もいます。レース巧者は競走の中でも足を貯め(使わないで)最後に備えているんです。マナティは結果も出始めていますし、それができるようになればさらに成績が伸びてくると思います」
走れ!自転車
「ここまで周囲の人に恵まれてきました。今は応援してくれる方に応えるためにも3着以内に入らなきゃ!の気持ちが強いです」。伊澤選手は2年目に入り6場所中3場所で決勝進出。周囲への感謝と(投票してくれるファンの)車券に応えなければならない話になると一気に表情が変わりました。

松戸車連の高校生親子と

プロ駆け出しの頃の伊澤選手(左)
「自分で動いて、実況の人に何回も名前を呼んでもらいたいです」と語る伊澤選手。今回のインタビューを通じ伊澤選手が単なる負けず嫌いではないことが分かりました。走り込んで身体を作り、バーベルを持ち上げダッシュ力を磨いています。そして、レースを走り出したらどんな展開でも瞬時に対応できるよう、幾通りものコースを頭の中で編んでいるように感じました。

バンクを駆け下りる姿はまるで滑空するツバメのよう(撮影:飯島隆)
【松戸競輪場】 〒271-0064 千葉県松戸市上本郷594
JR北松戸駅から徒歩3分