紛れもなく酒屋です(笑)。
昭和世代の記者が思い浮かべる昔の酒屋は、
うす暗~くて、入口にレジがあり、お酒を買うお父さん以外は外で待っている…
石山理恵(いしやまりえ)さんを取材しました。
理恵さんは埼玉県出身。
大学は理工学研究科アニマルサイエンス専攻の理系女子。
「大学院の修士過程で犬や猫の問題行動を修正したり、行動を観察して動物の状態を評価するということをやっていました。
博士課程に進んで研究者になりたいと思っていました。」
酒屋が実家のご主人とは動物関連のイベントのスタッフを一緒に行っていて知り合ったそうです。
―なぜ酒屋を継ぐことに?
「2009年、結婚の挨拶で訪問した頃に先代(義父)が入院しました。
当時、夫の勤務先は鴨川市で離れて暮らしていました。
夫とは義父が元気なうちはお店を続けることと早く結婚して安心させてあげたいと話をしていました。
義母がお見舞いで病院を行き来してましたので、最初はお手伝いする感覚でした。」
地元では「ますよしさん」と呼ばれています。
建替え前は地下にワイン庫があり、普段の食事と一緒に気軽に飲めるワインを広めた店。
超!が付くほど人気の日本酒が、プレミアなしの定価で買える店。
以上が、新松戸在住の記者が知る、ますよしさんのイメージです。
大変な苦労なのに…、ほのぼのとしていて面白いのです。
結婚後の理恵さんの生活は激変しました。
「木・金・土・日」と新松戸の店を手伝い、日曜日に夫が勤務している鴨川市の自宅に戻る生活です。
【ある日のブログ】
『今日は日曜日なので、夕方松戸から鴨川に帰って参りました。木更津を過ぎて、君津の山道を走っていたところ。雨も降っていなかったのに突然雪が降り出してしまい。実は私、免許を取得してからまだ1年ちょっとで(配達のために合宿で取りました)、雪道の運転は初めて!!!!!』
ー店を手伝い始めてどうでしたか?
「先代と義母が長年築いた多くのお客さまがいました。
これまでの経営努力で、店頭販売も多く、
店売りと配達が半々くらい。
同時期に入った従業員の稲吉(いなよし)と試行錯誤の日々でした。」
ー苦労した点は?
お客さまの好みを先代が把握していましたので、売上が減少しました。
お客さまは店に来るとまず義母がいるか確認、次に従業員の稲吉に相談します。
お客さまは私にもやさしいのですが…
何も聞いてくれません!」
悩める理恵さんにひとつの転機が訪れました。
義母から「久保田」で有名な朝日酒造が主宰する後継者塾に通うよう依頼されたのです。
「最初は軽い気持ちで引き受けたのです。あんなに膨大な宿題をやらされるとは思いませんでした(笑) 。品質管理はもちろん、売上計画、しかも銘柄ごとですよ!そして中期経営計画。
ただ、ここから店の経営に携わるようになりました。同じ悩みをもつ酒屋の方々と一緒に学ぶこともできました。」
そんなお客さまには四合瓶(720ml)をお勧めするようになりました。」
取材を進めるうちに、「すごーーく勉強家で、前向き、そして日本酒が大好き!」と分かってきました。
自分で日本酒を飲むようになって、ある日飲んだ八海山に感動しました。」
【2010年のブログ】
『今回は飲食店様向けのイベントですが、試飲会には一般の方もご参加頂けます。酒粕を使った粕汁(私が作りますよ~!!)などもご用意したいと思っております!
お気付きの方もいらっしゃるかと思いますが、このイベントは第1回ということで、私めの発案・実行でございます。至らぬ点も多々あるかと思いますが、頑張りますのでどうぞ宜しくお願い致します。』
「今日はお客さん少な目です。あら~!まだFacebookに上げてなかったわ」
記者の心配をよそに次から次へとお客さまが来店します。
試飲会は現在、月1回のペースで開催されています。
―お客さまに参加の目的を尋ねました。
「ほら、今、ビールは缶でスーパーで買うでしょ、でもお酒はここで選ぶんだよ。」
「夫婦で北小金から来ています。最初はネットで知りました。自分たちで飲むものを買いに、試飲会の告知があったら必ず来ますよ。」
「最初はネットで奥播磨を買える店を探して辿りつきました。その後、偶然、理恵さんとはママ友に(笑)。」
「居酒屋では一杯の量が多すぎて飲み比べができません。ここでは飲みやすいものを探せて嬉しい。」
―大盛況ですね。
「参加費を有料(300円)にした結果、買わなくても気軽に飲めるというのが良かったようです。
試飲はワインのテイスティングのように吐き出すのが本当ですが…
皆さん飲んじゃってますし、混んでくると常連さんは自分で注いでます(笑)。」
「誰も私に質問をしてくれない」という話は昔話のようです。
義母で女将の石山よう子さんに伺いました。
―開業の経緯を教えてください。
「弓道を通して知り合った夫は当時、日本橋の酒販店に勤務、独立を目指していました。39年前かしら?
夫が『武蔵野線が開通し路線が交差する新松戸は発展する!』とこの地を選びました。
当時酒屋は免許制、一刻も早く免許を取りたくて水道が引かれる前に井戸を掘ってもらって移住、新松戸三丁目はまだ畑ばかりで地主さんを含めて五軒目の家でした。
夫は『新松戸に気軽に飲めるワインを広める!』
と研究したり、
『これからは地酒の時代!』
と仕入れ先開拓のため地方の酒蔵を飛び回ってました。
私もワインの資格を取ったり、
子供のおむつを持って酒蔵巡りに同行しました。」
―息子さんが後を継がないと知ったときはどうでしたか?
「夫が悪いのよ~、息子の大(だい)が小さい時に『足し算と引き算と挨拶ができれば商売はできる』と言っちゃって、大が怒っちゃったのよ(笑)。」
―理恵さんが継ぐと言ったときは?
「絶対に無理だと言いました。自営業はなんだかんだと24時間営業ですからね。
それに、最盛期はこの地区に13軒の酒屋がありましたが、今では3店舗ですよ。」
理恵さん 「店を続けたいと主張したのは大さんですよ!」
よう子さん「え~っ知らないわよ、大~、今さら何言ってんのよ~」
理恵さん 「え~聞いていないのですか?私もお義父さんとお義母さんの馴れ初めを初めて知りました。」
石山大(いしやまだい)さんはその後、鴨川から野田市にある「千葉県農業共済組合連合会」の「西部家畜診療所」に転勤、家族と一緒に生活できるようになりました。酪農家相手の牛の獣医として勤めながら東京大学大学院博士課程に在籍し、論文に学会に大忙しです。
ーなぜお店を継がなかったのですか?
「子供の頃の父は日中は配達に、夜は飲みに、今にして思えば営業の一環だったと思いますが、夜も遅くに酔って帰って来ました。
当時は絶対に継ぐまいと思いましたよ(笑)。」
今では大さんも休日に店頭に立ったり、地域のイベントに参加したり。
先代の、忙しい生活を送るDNAを引き継いでいるようです。
店舗はワイン庫が地下にあった構造上、建て替えを余儀なくされます。
ピンチをチャンスに、ますよしさんは、理恵さんの考えた女性にも入りやすいお店を実現したのです。
取材当日偶然訪れていた写真家の小川雅代さんは
「私は仕事柄ホームページ用の写真撮影でいろいろなお店に出かけています。
今日も美容院の撮影に行ってきたのですが、競争の激しい業界で、お店は時代に合わせないとだめなんです。
初めて入りましたが、店に入ってすぐに、合ってるな~!と感じました。」
―これからどんな店づくりをしたいですか?
「出産もあってまだお取引先の酒蔵すべてを見てないんです。ぜひ出かけてみたいです。
もっと詳しく、もっとやさしく日本酒の美味しさを伝えたい!
昨年は講師を招いてワイン教室を開きました。
ワインの品揃えを充実しようと考えています。」
二代目のアイデアは尽きません。
「従業員が働きやすいようにしなければと思いますし、店が地域に貢献できればと思います。」
それを見守る義母・夫・従業員。
そして、今では多くのお客さまが理恵さんを支えているように感じました。
形を変えながらも、店全体に受け継がれていることが分かりました。
【ますよし酒店】
松戸市新松戸3丁目131-2 ☎047-343-7594
■営業時間/10時~20時 ■定休日/毎週水曜日