まつどの農家を訪ねて
都心からのアクセスも良い松戸市ですが、意外にも市内には現在約800戸の農家があることをご存じですか? 農業産出額では野菜の割合が85%以上と高く、都心近郊に多くの野菜を供給しています。今回はまつどの知られざる魅力を探るべく、松戸市の農家軒下販売所めぐりに出かけてきました。
今回訪問したのは北小金にある名跡・本土寺周辺にある農家さん。やさしい日差しに緑が鮮やかな参道を進むと、辺りにのどかな田園風景が広がります。境内裏手の農道を歩くと心はすでにピクニック気分! わくわくしながら伺ったのは、小金地区特産のネギ「あじさいねぎ」を栽培している、石井寛茂(ひろしげ)さんの農場です。
軒下販売の定番食材「あじさいねぎ」
「あじさいねぎ」とは、小金地区本土寺周辺で続けられてきたネギ栽培技術をもとに、品種改良を重ね、品質の良いものを選抜し商品化したもの。ちょうど作業場では今朝収穫した「あじさいねぎ」を出荷用に整えていて、室内は新鮮なネギの香りが充満しています。
「機械を使ってネギを洗い、外皮を剥いて根っこをカット。その後、人の手で葉の枚数を整えます。日持ちの関係から葉は3枚と決まっているんですよ。今は春から秋の品種ですが、冬用の品種もあるんです」と石井さん。「冬ネギはほんとに柔らかくてね、ヌタで食べたら最高」と作業中のみなさんが手を休めて話してくれました。その冬ネギの中でも1月から2月の『孫ネギ(ネギの中心から伸びてくる細い芽)』はさらに美味しいのだとか。
さて、この「あじさいねぎ」ですが、小金園芸品出荷協会では地元の方々にも改めて地域の名産を知ってもらおうと、「あじさいねぎ普及プロジェクト」という取り組みを行っています。「あじさいねぎ」を使った美味しいレシピを販売時に伝えたり、クッキーやおせんべい、アイス、ウインナーなどの加工食品の開発をしたりしています。
加工品の一つである、千葉県産の豚肉に刻んだ「あじさいねぎ」を入れた「あじさいねぎポークソーセージ」を販売しているのは本土寺参道沿いの「黒門家」さん。ここはお漬物や加工品の他、近隣農家の野菜も直売しています。店主の谷口誠一さんは「鮮度に勝る良品無し!がうちのモットー。採れたてのものをすぐに提供することが、消費者の求めていることですから」とにこやかに語ってくれました。
そうそう、甘辛のタレに刻んだネギの香り豊かな「あじさいねぎのタレ」をご存知ですか? このタレを使った激ウマレシピを、本土寺参道沿いにある和食店「大門竜」の大将に教えてもらいました。「常陸牛のザブトンを軽くあぶって、そこにタレとわさびを少し。ネギの香りが肉の旨みを引き立たせてくれますよ。また、家庭で気軽に作るなら、豚しゃぶやゆで豚にかけてもうまいです! その時に、七味を少し加えてみて。わさびや七味といった刺激のある調味料がよく合います。個人的には炊きたてのご飯に削り節をかけて、そこにこのタレをのせてアツアツのところを食べるのが最高だと思います!」。
あじさいや紅葉の時期には観光客も多いこの地域、「大門竜」でランチをいただき、本土寺で説法を聞いたり境内やお寺の内部を拝観できるツアー企画もあるとのこと(6月12日・18日・24日・30日、11月21日・25日、12月1日)。この周辺を初めて散策する人にはおすすめですね(詳しくは大門竜へ)。
各農家さんの敷地内にある軒下販売所には、「あじさいねぎ」の他にも、ホウレン草や菜の花などが並べられ、お客さんがつぎつぎと来ては野菜を選んでお金を箱に入れていきます。石井さんの販売所では、4月末からは枝豆の「湯上り娘」、5月は甘味の良いトマト「サンロード」、6月には「味来(みらい)」という品種のトウモロコシが登場するとのこと。5月から予約受付を開始するトウモロコシ「味来」は特に人気で、1日2,000~3,000本も出荷されます。しかも予約だけで売り切れてしまうというのだから、さらに驚き!
“まつど”フルコースはデザートもカンペキ!
お野菜、漬物、タレと、すっかり買い物ツアーとなってしまいましたが、最後にデザートを……と訪ねたのが「月見里(やまなし)農園」。ここはいちごの生産農家さんで、採れたての完熟いちごを軒先販売しています。1月から3月のお彼岸までが販売のピークですが、4月でも美味しいと評判の「とちおとめ」を購入できます。「うちの子どもたちは、最初にぽつぽつと赤くなったばかりのいちごを食べるんだよね。それが一番美味しいって知ってるから(笑)。実はいちごは早いうちの方が美味しいんですよ」とご主人の月見里(やまなし)泰之さんは話します。
松戸市内には、北小金周辺の他にも、ところどころに軒下販売所があります。「まつどやさしい暮らし会議」では、「東京から常磐線に乗って帰ってくる時にネギ畑を見るとホッとする」「都会に近いけど人情味がある都市」といった意見もありました。住んでいる街に畑がたくさんあって、しかも地元の農家さんが作った新鮮なお野菜を市内のあちらこちらで買うことができるって、なんて幸せなんでしょう! 生産者の「顔の見える野菜や果物」は作り手の笑顔の分、きっとさらに美味しくなるんですね。