常盤平団地自治会が、”孤独死ゼロ作戦”を始めて今年で13年目になります。
今や”孤独死ゼロ作戦”は、日本の新聞・テレビ・冊子・月刊誌・週刊誌などで幅広く取り上げられ、多くの人がこのプロジェクトを知ることとなりましたが、さらに国際的にも注目されています。
イギリスの『ザ・ガーディアン』紙に半ページにわたり掲載されたのをはじめ、ロイター通信・オランダ国営放送・ドイツのマガジン誌からも取材があり、韓国のテレビではKBS(韓国放送公社)・MBC(文化放送ネットワーク)・TBC(大邸放送)などで放送され、KBSでは反響が大きく3回も放送されました。
左は2010年3月26日読売新聞社会保障部・猪熊律子次長の署名入り記事「緩和急題」で、孤独死ゼロ作戦が”地域や友人 絆を作ろう”の題材となった時に、挿絵に採用された大野隆司(おおのたかし)さんの版画です。
「孤独死ゼロ作戦」に感銘を受けた大野隆司さんからNPO孤独死ゼロ研究会に版画が贈呈され、この版画が皆に愛される「孤独死ゼロ作戦」のシンボルマークになりました。
なお、この読売新聞のコラムは富山大学経済学部の入試問題 にも使われ話題となりました。
韓国のTBC放送で2年前に放送された1時間の特集番組『高齢化の影 孤独死』のDVDが自治会にあるというので、見させて頂きました。
韓国語なので言葉が良く分からず大まかな理解になりますが、番組では韓国で独居老人の割合が増加していること、独居老人の生活実態や引き取り手のいない遺骨の問題など、韓国が直面している現状が浮き彫りになっていました。
そして、スウェーデンや日本の高齢者対策の取り組みが紹介されている中に、常盤平団地の”孤独死ゼロ作戦!”が自治会長の中沢卓実さんの説明、見守り活動やいきいきサロンの様子と共に取り上げられていました。
海外でも”孤独死ゼロ作戦!”が注目されている理由を中沢会長にお聞きしたところ、先進国では孤独死問題はどの国でも起きている問題なのだと言います。
経済的豊かさと心の豊かさは反比例する!経済的に豊かになると、個人中心の社会になり家庭や地域がバラバラになるバラバラ現象が起き、孤独死へとつながる流れになる、と。
ここで松戸市の孤独死の実態を調べてみました。
松戸市では孤独死は年々増加傾向にあり、平成15年の90人が平成25年は189人になっています。
松戸市は孤独死の定義を「自宅で誰にも看取られずに亡くなった独り暮らしの人」としています。平成25年度はデータがある平成15年以降で過去最多となりました。189人のうち20代から40代も20人いました。
内訳は、男性138人・女性51人、年齢層では75歳から79歳が最も多く、発見まで30日以上かかった人は13人、210日かかったという事例もあり、依然として深刻な事態だそうです。(数字には自殺者も含む)
さらに、全国では約3万人、東京都は約4,500人という数字が出ています。(千葉県の公表は見つかりませんでした)
2040年には全国では20万人に増えるのではないかと言われています。
◆”常盤平団地孤独死ゼロ作戦!”とは?
常盤平団地が孤独死の課題に取り組むキッカケとなったのは、2001年春に発見された「白骨死体3年経過」(男性69歳)という痛ましい出来事でした。
翌2002年4月に2人目の「こたつに伏せて4か月」(男性50歳)の発見から、団地自治会と団地社会福祉協議会の役員が理事会やシンポジウムを開いて、孤独死の課題について次々と挑むことになりました。
3年後に”孤独死ゼロ作戦”を公表し、孤独死を発生させる社会的背景をテーマに、孤独死の実態把握や早期発見・早期対応などを課題に、「いきいき人生・いい生き方」を呼びかけ、人と人とのつながりを重視する取り組みを行っています。
”孤独死ゼロ作戦”の主な柱は
1、あんしん登録カードの活用
2、民生委員と協力の見守り活動
3、いきいきサロンの運営 などです。
安心登録カードでは、65歳以上のひとり暮らしの方対象で、不測の事態の際身内の人に連絡するのに役立っています。
見守り活動では、民生委員と協力し合い定期的に家庭訪問を行うことはもとより、目配り、気配り、思いやりの心でささえ合っています。「孤独死110番」の電話相談も設置され、いつでも連絡・相談できるようになっています。なによりも家庭訪問に勝るものはない!そうです。
いきいきサロンは、2007年4月に設立され人々の居場所となり、出会い・ふれあい・仲間づくりのサロンとして、地域の和づくりの拠点の役割を果たしています。
いきいきサロン 11時から17時、年中無休
入室料100円、UCCのスペシャルブレンドおかわり自由
2階には12畳の和室もあり、300円で誰でも自由に利用できます。
取材中子育てサークルのママさんが打ち合わに利用していました
写真右/常盤平の花屋「あおき」さんから定期的に寄付されるお花が、サロンを明るくしています
昨年いきいきサロンの顧問に、衆議院議員・渡辺博道氏、本郷谷健次市長が就任し、田村元厚生労働大臣も視察に訪れるなどますます注目されています。
また、開設以来月間利用者は平均1,000人と多く、視察する団体は275団体、個人168人(2014年3月累計)と人気サロンになっています。
サロンむすめ(いきいきサロンの女性スタッフの呼び名)の白川さん(写真右)は、
「毎日必ず来る人は10人前後います。ドアを開けて入ってきた時に、その人の顔色で体調が分かるので、必ず声がけをしています。ここでも、サロンの利用者を見守っているんですよ!」
と話してくれました。また、サロンむすめの有償ボランティア(200円/時間)を始めてから、ご自身も明るくなったそうです。
ボランティアのメンバー20人が、交代で年中無休のサロンを支えています。
写真上/サロンむすめの高本さん(左)と白川さん(右)
写真左/昨年視察に訪れた田村元厚生労働大臣
写真右/毎日サロンに訪れるという奥様が入院中の85歳の浅井さん
平成21年には「地域づくり」の貢献が認められ、団地自治会が総務大臣表彰をされています。
受賞理由は
①「孤独死ゼロ作戦」を全国的に普及
②居場所「いきいきサロン」が地域のコミュニティーの再生に役立っている
③自治会会報「ときわだいら」の発行が48年も続いており、コミュニティー再生に役立っており、地域づくりに貢献している
◇平成21年度に受賞した「地域づくり総務大臣表彰」についての動画はこちら
”常盤平団地自治会「ひとりにしない~孤独死ゼロへ挑む~」(千葉県松戸市)”(Youtube 15分)
◆自治会長の中沢卓実さんは81歳!!
自治会長の中沢卓実さんは、55年前の団地入居開始時から常盤平団地に住み、53年前の団地自治会立ち上げ当初から自治会に関わり、そして30年前から自治会長をされています。
さらに自治会報「ときわだいら」を53年間発行し続けています。
20代の若さで自治会に関わることになった理由をお聞きしたところ、「この団地で一生暮らそう! 一生暮らす団地を良くしようと思ったから」という熱い信念をお話し下さいました。
~中沢卓実さん略歴~
昭和9年生まれ。新潟県加茂暁星高校卒業後、産経新聞に入社。週刊サンケイ編集部を経て昭和59年から平成19年までの23年間、タウン誌「月刊myふなばし」編集長。
この間、常盤平団地自治会長・松戸市社会福祉協議会理事・松戸市学区審議会議員などを歴任。
常盤平団地地区社会福祉協議会を立ち上げ、本格的に「孤独死の課題」に取り組む。
平成22年、NPO法人孤独死ゼロ研究会を設立、理事長に就任。平成23年、淑徳大学特別招聘教授。
右は中沢会長の著書です。
また、テレビ出演や全国から講演依頼も多数あり、今まで211回の講演を行っています。
中沢会長がこの問題に取り組んで学んだことは、
「人の為は自分のため!」
「人の幸せは自分の喜びとして受け止める!」
「死は生の鏡!」
人間は死に方を選べないが、生き方(人の為に尽くす、その努力は生きているからこそできる)は選べる。自分と他人をどうやって思いやりを持って生きるか…という人間らしい関係を学ぶことができた!と言います。
そして、良い事を学ぶと、皆が協力してくれることがわかった!そういうことが地域活動の原点です。
地域活動の協力に、年齢は関係ない!!と力を込めて語ってくださいました。
◆韓国福祉センター6名が視察に
3月2日、韓国農漁村公社・福祉センターの6名と通訳1名が、昨年韓国で放送されたKBSテレビを見て直接お話しを聞きたいと視察に訪れました。直面している共通の問題に、視察の方達の高い意識を感じました。
「いきいきサロンの家賃は何処からでているのですか?」との質問に、「UR都市機構の好意で家賃を半額にしてもらい、自治会費と団地社協から出しています!」と回答すると、韓国では町内会や自治会というものが無いと驚いていました。
難しい問題がテーマの視察でしたが、終始和やかに国際交流まで図られている中沢会長でした。
写真左上/説明する中沢会長
写真右上/いきいきサロンでお茶を飲みながらの質疑応答。福祉センターの方が真剣にメモをとっています
写真左下/前列左から2番目=団地社協会長82歳の大嶋愛子さん、後列左から2番目=中沢会長。常盤平団地50周年記念碑「幸せを呼ぶ健康長寿」のモニュメントの前で
◆地域活動で健康長寿
「孤独死」の共通の生活パターンは”ないないづくし”であるということだそうです。
①配偶者がいない②挨拶をしない③ともだちがいない④身内と連絡しない⑤自治会に加入しない⑥近隣関係がよくない⑦自治会の催しに参加しない⑧人のことにあまり関心を持たない
特に男性の場合は
①料理が出来ない②アルコールをやめない③ゴミ出しルールを守らない④配偶者を亡くした後の立ち直りが弱い
なんだか、耳が痛いですね‥‥また男性の場合は、長く会社勤めをしていると「会社は縦社会・地域は横社会」なので横社会になじめず、地域で摩擦を起こし孤立してしまう人も少なくないそうです。
中沢会長や団地社協の大嶋会長は共に80歳を超えていますがとてもお元気で、精力的に活動されています。役員やサロンむすめの方達も、明るく中沢会長を支えていました。
「中沢会長を超える自治会長はいない!」と住民の方は言います。
高齢者=見守られる側というイメージですが、80歳を過ぎてもなお見守る側で、地域を良くすることに情熱を注ぎ、生きがいとされています。
中沢会長に健康の秘訣をお聞きしたところ、「とにかく頭を使う事!その他運動など何もやっていない!酒も飲まない!私の仕事は年中無休です!」とのことでした。
今、高齢化により自治会の役員のなり手がなく、無くなっていく自治会(島根県の団地など)も出始めているそうです。また、民生委員も定年(75歳)でなり手がなく活動できなくなっている地域もあるそうです。
町内会や自治会が韓国には無いという話を聞いて、村社会の日本では昔から祭りや神社などの行事を通して、地域の横の繋がりが人々の暮らしに大切だという事が分かっていたのだと、改めて思いました。
常盤平団地では、”孤独死問題”に取り組むことで団地の絆が深まったと言います。
そして今、中沢会長は新たな課題に取り組んでいらっしゃいます。
まず、団地55周年記念行事として常盤平中央商店街広場の改修です。この改修事業では、UR都市機構と自治会が協力し合って松戸市が推し進める「文化的なまちづくり!」を目指しています。
次に、終活ノートの活用、普及です。
この終活ノートについては、出版社2社から執筆依頼が、生命保険会社1社から協力の依頼が来ているそうです。
難しいテーマの取材でしたが、中沢会長は”楽しくやる”精神で課題に取り組み、関わっている方々もいきいきと活動されているのが印象的でした。
そして、団地自治会、団地社協、孤独死ゼロ研究会はまだまだ発展し続けています。
中沢会長の口ぐせ「豊富な知識も活用することで知恵がわく!」の言葉通り、中沢会長はより良い地域を目指して頭を使い、さらに知恵をしぼり続けていらっしゃいます!
◇まつど孤独死予防センター(常盤平市民センター内)の地図
◇いきいきサロン(常盤平商店街内)の地図