松戸まつど
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素敵な発見!2019年9月30日

松戸発 サイクリストの 夢のパリ ~1200km走る4年に一度のサイクルイベント挑戦~

2019年夏。
お盆前の江戸川サイクリングロード

実は猛暑の中の撮影。パリ出発前の忙しい中ご協力ありがとうございました。 (松戸市樋野口)

記者はこれまで松戸にまつわる多くのサイクリストを取材してきました。
さらに松戸競輪場では選手を直撃。もうネタは尽きた…と思っていました。…が、

 尾形昌欣さん。日頃は優しいサイクリストです。

待てよ…、一人いました!
ライト付きヘルメット
派手な反射ベスト
着替・食料を積むと重めの自転車
そして、険しい表情…
これって楽しいの?

自転車仲間の尾形さんを案内人に取材を開始しました。

1200km・90時間以内完走を目指す強者
 今回は、4年に一度開催されるパリ出発、ブレスト往復という世界的サイクルイベント
「パリ-ブレスト-パリ」に挑戦する4人の市民を取材しました。

左から小玉さん、陳さん、尾形さん、馬場さん。馬場さんの自転車店「シクル・マーモット」(松戸駅西口)の前で。

「パリ-ブレスト-パリ」とは?
取材のきっかけは自転車仲間 尾形昌欣さんの新しいウェア

 2019大会の記念ウェア。取材用に補給食のパンも用意

尾形さん「パリ-ブレスト-パリ(以下PBP)は世界で最も古いサイクリングイベントです。
1851年から始まり初期はレースとして行われていました。
有名なフランス一周レース『ツール・ド・フランス』の原型になったとも言われています。
松戸からの出場者を紹介できますよ。」

 2015年大会での尾形さん(写真:ご本人提供)

尾形さん「今大会は、8月18日午後にパリを出発。600km先のブレストで折り返し、再びパリを目指します。
制限時間内完走を目指す人は、
4回の夜を仮眠を取りながら
5日間、1200km走り続け、
22日早朝までにゴールする必要があります。」

実は尾形さん、前回大会で86時間43分の完走者なんです。

 

1200kmは高速道路を使う東京・大阪往復(約1000km)より長いです。
PBPを走るのは屈強の若者…?
取材を進めます。

挑戦者の横顔
フランスを初めて走るお二人をインタビューしました。

小玉さん。日本製Panasonic社のフレームのバイク

陳さん。イタリア製DeRosa社のバイク

 自転車には、いくつものコンパクトなバッグ、GPSを搭載したナビ付きのスピードメーター、ボトル2本、赤く点滅して目立つ大きめのテールランプ等が装備されていました。

小玉大介さん

「生まれも育ちも松戸です。」
生粋の松戸市民という小玉さんは松戸駅前の法律事務所に所属する弁護士。
「自転車乗りの立場から交通事故についてもお役に立ちたいです。
もともとはオートバイ乗り。全国を走り回るツーリングライダーでした。
2005年頃、自転車通販サイトの記事を読んで『ブルべ』に興味を持ちました。」
インタビューは、この後ブルべと呼ばれるサイクリングの話題に移ります。

 

陳 玉萍さん

「娘が1才の頃、武蔵野市から松戸市に越してきました。」
という陳さんは御茶ノ水に通勤する会社員。

「サイクリングは会社の福利厚生の健康カフェテリアプランで始めました。自転車も最初は本格的なものではなかったです。その前はゴルフでしたが、自転車はすぐに乗れるし、時間が自由で良いですね。
2013年に馬場店長のお店でロードバイクを購入しました。
スピード出すのは苦手なのですが、お正月に逗子を1人で自分のペースで走ってみたんです。
海の眺めは美しいし、そしたら案外200kmは短いなと(笑)

記者「……。200kmは長いです。」

インタビュー前はアスリート系の方たちを予想していましたが、お会いしてみると、健康志向の意外と普通の方達でした。走る距離が普通ではない点(笑)を除いては。

ブルべって何?
PBP挑戦を取材するうえでブルべと呼ばれるサイクリングを理解する必要があります。
日本でブルベの運営を行う団体「一般社団法人オダックス・ジャパン(以下AJ)」のホームページ(以下HP)を見つけました。

尾形さん(左)も平日はシステム開発に携わる会社員

ブルベ(仏語 Brevet)は認定を意味します。
「ブルベとはノーサポート・自己責任の長距離サイクリングイベントで、タイムや順位には拘らず制限時間内での完走を認定するものです。参加者は事前に公表されているルートに従って走行し、指定されたチェックポイントを時間内に通過しゴールを目指します。」(AJのHPより)

称号「シューペル・ランドヌール」
尾形さんがブルべ完走の証であるメダルを披露してくれました。

左から200、300、400、600km、SR、前回PBPメダル

尾形さん「PBPの主催者はオダックス・クラブ・パリジャン(Audax Club Parisien)。
参加資格は開催の年に各国のオダックスクラブから「シューペル・ランドヌール(SR)」の称号を受けること。
今回PBPに出場するには、
2018年11月〜2019年7月に
200、300、400、600kmを制限時間内に完走する4つの認定が必要でした。」

「私は1000kmの認定を受けています」と小玉さん。

小玉さん「速く走り、睡眠をしっかり取るタイプです。」

「山梨県の石和温泉出発、東海道をに西向かって走り、名古屋を経由して琵琶湖を一周。再び名古屋経由で石和温泉に戻る1000kmのコース。制限時間は75時間で、認定タイムは72時間5分でした。
台風の余波と思われる強い風と雨の連続、3日目の暑さと強い日差しに悩まされました。
名古屋に2泊分のホテルを予約。行きと帰りの夜中にホテルに着き、明け方にたつという作戦でした。」

 やはり法曹試験をクリアした能力と忍耐力は並みの人ではありません。

路肩に横たうサイクリスト
ブルべはPCと呼ばれるチェックポイントを通過すれば、休息の場所・時間は各自の判断に任されるそうです。1200kmの国際大会では公式の休憩施設が整備されていますが、そのほかにも駅・バス停のベンチや公園で仮眠したり、安全な路肩や許可を得て店先で寝転んだり、自転車に跨ったまま数十分休息…走るのが遅いとそれだけ眠る時間が削られるそうです。
街中は騒音や車のライトで、公園では犬や虫が、山中では怖い動物が…なかなか眠れないそうです。しかし、眠れないから「じゃあ走っちゃおうかが危険」だそうです。

お互いの眠気防止策に爆笑

小玉さん「以前、真夜中に眠気防止にラジオを鳴らしながら山間を走っていたのですが、電波の状態が悪く、聴こえたり、聴こえなくなったり。カーブを曲がったら、突然、NHKの放送が入って、カフカの小説『変身』の朗読が始まりました。あまりにも暗い声と内容にげんなりしてラジオは切りました(笑)。」

陳さん「夜、カエルの鳴き声が聴こえるので、娘が小さいときに一緒に輪唱した『カエルの歌』を歌いました。真夜中に一人で歌う私を後ろから抜き去ろうとした人はどう思ったかしら(笑)。」

記者「ところで皆さんは、フランス語が話せるのですか?」
一同「……(しーん)。」

店主はフランス通
「シクル・マーモット」店主の馬場善久さんは高校時代から実業団チームに登録していた競技経験者。ロードレースでは全日本選手権出場。大学時代はサイクリング同好会で日本とニュージーランド縦断を経験した筋金入りのサイクリスト。

外交官としてフランス駐在経験もあるパリ事情通

馬場さん「今回のPBP挑戦は、競技や旅と同様に、まず自分で経験し、お客さまをサポートしたいからです。
店名の『
マーモット』はアルプスやピレネー山脈に棲むリス科の動物。外務省勤務時代にパリ駐在を経験し、休日に『ラ・マーモット』というレースに出場。自転車のフランス語『シクル』とともに店名の由来になっています。
今回の私の最大の任務は皆さんが万全な状態でスタート地点に立ってもらうことです。」


陳さん「パリのスタートに立てたらと思ってここまで来ましたが、やる以上は完走したいに変化してきました。」


小玉さん「出るからには制限時間内に完走したいです。


行くぞパリ!
8月16日、一行が台風一過の日本を飛び立ちました。
自転車はある程度分解して箱に入れ、現地で組み立てます。経験を積んでいる皆さんですが、自転車店主が一緒って心強いですね。
馬場さんはフランス人の友人を通じて現地の宿を手配しました。

松戸駅西口からリムジンバス乗車(写真:斎藤明子さん)

羽田国際空港(以下写真は取材した皆さんから)

まつどやさしい暮しラボ初!海外ロケ?は編集会議で却下され(笑)
帰国後の報告会に潜入することに。

報告会に集まった「シクル・マーモット」ブルべ班の皆さん。


パリ-ブレスト-パリ 開幕
猛暑の日本から、現地で一行を待っていたのが雨と寒さだったそうです。

 前日、検車場に向かう一行。ウェアに注目!寒そう

 スタート直前の皆さん。この中に雨男が!?

写真を示しながら語る小玉さん。

小玉さん「何しろ朝夕は寒かったです。しかし、現地の皆さんの暖かい声援とSNSを通じた日本の皆さんの応援に励まされました。
町から町へ、沿道の子供たちがハイタッチを求めてくるんですよ。夜中でもその土地の皆さんが、窓を開けて、アレアレ(行け、行け~)!ブラボー!と応援がありました。

初の海外サイクリングとなった小玉さん、陳さん。無事に1200kmを完走することができたのでしょうか…?!

倒れ伏すともパリへ
89時間41分03秒。小玉さんが見事に時間内完走を果たしました!

 教会が見えると町が近い

小玉さん「個人的な印象では、坂、坂また坂。町には必ず教会があり、遠くからも目印になりました。しかし、通過しなければならない教会は必ず坂の上にあるんです(笑)。
夜になると、前を走る人の点滅するテールライトが川のように見えました。でも、上りが分かると嫌になりました(笑)。」

休息中に脚に灸を据え走る小玉さん。3日目の明け方に両方の手の平が攣ってピンチに。
日本のかかりつけの鍼灸師に携帯から電話してアドバイスをもらったそうです。

「町で店に入るのも脚がフラフラで大変でした。」

「残り1時間30分くらいで、もう間に合わないかと思いました。脚の痛みに薬を塗ってごまかし、限界までペダルを回し、なんとか間に合いました。
今まで見たこともない風景を撮ったり、楽しかったことは間違いありませんが、気温5℃まで下がる4回の夜と制限時間の迫るプレッシャーでしんどかったです。」

 ゴール後は脚がパンパンに腫れ上がり、しばらく歩けなかったそうです。

完走メダルを手にする小玉さん

「同行してくださった皆さん、日本からSNSを通じて励ましてくださった皆さん、ここに至るまでの国内の認定を得るためにサポートしてくださった皆さんに感謝します。
そして馬場店長のパリへの導きが無かったら、時期早尚と出場をためらっていたかも知れません。
今回のポイントは眠気に強かったことです。帰国前の観光が一番辛かったかも(笑)。」


激走110時間30分!
時間内完走ギリギリのペースでペダルを回し続けたという陳さん。
途中、はぐれながらも馬場店長と共に折り返し点600kmの地ブレストに到着しました。

パリ・ブレスト間を示すジャージ

陳さん「往路のブレストまでは向かい風。時間内完走を目指すため、睡眠時間の合計は2日で2時間くらい。とにかく、眠くて、眠くて。
そこで3日目の夜に歌いました。カエルの歌を。カエルだけでは足りず替え歌にして、ワンコ、ニャンコ、カモメ、キツネ、アヒル…も登場、ゲロゲロ♪、ワンワン♪、ニャーニャー♪…
馬場店長にも歌ってもらいました(笑)。」

折り返し後はいよいよ時間内完走が難しくなり、片付けや打ち上げをやっているPCに到着すると、地元のボランティアの方がまだ頑張っている姿に感動し、食事・飲み物の提供やハグなど熱烈に歓迎してくれたそうです。

4回目の夕日、ここから仮眠施設なしの時間帯

コントロール(=PC)と呼ばれる施設を撤去するボランティア


旅の情け
陳さんと馬場さんの二人は、他の参加者とともに869km地点で4回目の夜を迎えます。

ドゥニさんと馬場さん

陳さん「4日目の夜になるとPCは完全にクローズ。ついに通過の証のスタンプは押してもらえず、ボランティアスタッフの方がここに来た証にとサインしてくれました。疲れ切ってどうしようかと思っていた22時頃、スタッフの友人で自転車好きなドゥニさんがご自宅に泊めてくださいました。大きな家にお住まいで、奥さまにも出迎えていただき、ベッドやシャワーを用意してくれたり、お菓子もご馳走になりました。」

馬場さんは「疲れていても笑顔で挨拶する陳さんに、パリジャンもすぐに打ち解けてくれて」と語る一方、「我々がPBP参加者という身元の確かさ、PBPの伝統、フランスの自転車文化そのもの」と解説してくださいました。ドゥニさんが馬場さんのお店で扱っている主力ブランドのロードバイクに乗っていたことも分かり(早く寝たかったでしょうが)自転車談議で盛り上がったそうです。
翌朝5時、二人はドゥニさんの家をたち、残り約350km。壮絶な、5回目の長い夜を走りぬいてパリに向かいます。

パリ到着を証するスタンプ。22日15時が制限時間

時間内の認定ならずもボランティアから標識を記念に貰う。

パリを出発して5日目の朝。陳さんのブルべカードに完走のスタンプが押されました。
その時、陳さんの目から涙がこぼれ落ちたそうです。そして、自ら認定した到着時間(23日、8時45分)が心の中に刻み込まれました。

江戸川サイクリングロードに集まる
仲間内で「家に帰るまでがブルべ」と言われるそうですが、一行の帰国後最初の日曜日の江戸川サイクリングロード。そこには「お帰りなさ~い」の労いの声に囲まれる4人の姿がありました。

シクル・マーモット第304回走行会。この日は初・中級向け、取手市のパン屋往復のサイクリング

 馬場さんのバイクはフランス製!でした。

馬場さん「シクル・マーモットは松戸駅西口からも江戸川河川敷からも300mの距離にあります。2010年にロードバイク専門店として開業、初心者に対するお手伝いはもちろん、毎週末に走行会を開催しています。
レースからブルベを含むロングライド、また、トライアスロンやシクロクロスなど、私の経験を活かしてサポートさせていただきます。」


松戸発 サイクリストの 夢のパリ
ブルべはノーサポート・自己責任のサイクリングの旅。
しかし、そこには大会運営のボランティア、沿道の応援、多くの仲間に後押しされてゴールを目指していることが分かりました。

松戸から水元公園、葛飾柴又はすぐ近く。あなたも気が付いたらパリを走っているかも(笑)。

「夏草や 強者たちの 夢のパリ」今回取材した皆さんは、4年に一度の世界的なイベントで功名を夢見る兵(つわもの)ではなく、優しさと感謝の気持ちを忘れない、とってもタフで、そして、とっても素敵な人たちでした。

ラジオ ポワロとコラボ決定 

今回の記事を「まつどやさしい暮しラボ」プロジェクトメンバーであるラジオ ポワロで紹介していただくことになりました。マーモットとポワロの相性やいかに(笑)。乞うご期待!!

 「シクル・マーモット」のマーク

 ポワロとはフランス語でネギのこと

千葉 淳

千葉 淳 (ちば じゅん)

「人生は旅」、学校卒業後、松戸市民から転勤族に。東北勤務時代に家族と「おくの細道」をたどるサイクリングを始めました。平成26年春、転勤で帰郷。これからは”松戸芭蕉”となり旅人の目から見た「松戸」を伝えていきます。

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